2024年度介護報酬改定動向(2)――ケアマネジャーに関連する改定概要
政府は、2024年度介護報酬改定の改定率を1.59%増とし、うち0.98%は処遇改善に充てる方針を公表した。これとは別の外枠として、処遇改善加算の一本化で0.30%増、施設の光熱水費の利用者負担増で0.15%増の効果を見込み、合計すると2.04%増に相当するとしている。
同時改定となる診療報酬も改定率を0.88%増とする方針だ。このうち、コメディカルなどの賃上げに0.61%、入院時の食費の見直しに0.06%を充てるとしている。
また改定時期について、医療系サービスである居宅療養管理指導、訪問看護、訪問リハビリテ-ション、通所リハビリテ-ションは6月実施。その他は4月実施となることも決まった。
2024年度介護報酬改定に向け、厚生労働省は社会保障審議会・介護給付費分科会に審議報告をとりまとめ提示した。報告では①地域包括ケアシステムの深化・推進②自立支援・重度化防止に向けた対応③良質な介護サービスの効率的な提供に向けた働きやすい職場づくり④制度の安定性・持続可能性の確保―という4つの視点に沿って2024年度改定の概要を示した。今回は、審議報告の中でケアマネジャーとして知っておきたい内容を概説したい。
業務継続計画未策定事業所に対する減算制度の導入――居宅介護支援は2026年3月末まで経過措置あり
2021年の介護報酬改定では、感染症対策の強化、業務継続に向けた取組の強化、高齢者虐待防止の推進などの取組み強化策が新設された。これらは2024年3月末までの経過措置が設定されていた。経過措置期間終了を受けて、2024年4月以降いくつかの減算制度が新設される。
業務継続計画未策定事業所に対する減算は、居宅療養管理指導を除く全サービスに導入される。具体的には感染症若しくは災害のいずれか又は両方の業務継続計画が未策定の場合、基本報酬が減算される。ただし、2026年年3月31日までの間、感染症の予防及びまん延防止のための指針の整備及び非常災害に関する具体的計画の策定を行っている場合、減算は適用されない。なお、訪問系サービスと居宅介護支援は、2021年度介護報酬改定時に感染症の予防及びまん延防止のための指針の整備が義務付けられてから間もないことと、非常災害に関する具体的計画の策定が求められていないことを踏まえ、2026年3月31日までの間、これらの計画の策定を行っていない場合でも、減算されない。
高齢者虐待防止、安全性の確保等の取組の推進なき場合の減算制度――居宅療養管理指導、福祉用具貸与及び特定福祉用具販売は除外
利用者の人権の擁護、虐待の防止等をより推進する観点から、全ての介護サービス事業者(居宅療養管理指導、福祉用具貸与及び特定福祉用具販売を除く)に、虐待の発生又はその再発を防止するための措置(虐待の発生又はその再発を防止するための委員会の開催、指針の整備、研修の実施、担当者を定めること)が講じられていない場合に、基本報酬が減算される。ただし、福祉用具貸与及び特定福祉用具販売は、そのサービス提供の態様が他サービスと異なること等を踏まえ、3年間の経過措置期間を設けられる。
さらに、身体的拘束等の更なる適正化を図る観点から、(1)短期入所系サービス、多機能系サービスでは、身体的拘束等の適正化のための措置(委員会の開催等、指針の整備、研修の定期的な実施)を義務づける。また、身体的拘束等の適正化のための措置が講じられていない場合は、基本報酬を減算する。その際、1年間の経過措置期間が設けられる。(2)訪問系サービス、通所系サービス、福祉用具貸与、特定福祉用具販売、居宅介護支援については、利用者又は他の利用者等の生命又は身体を保護するため緊急やむを得ない場合を除き、身体的拘束等を行ってはならない。なお身体的拘束等を行う場合は、その態様及び時間、その際の利用者の心身の状況並びに緊急やむを得ない理由を記録することが義務づけられる。
一部の福祉用具貸与と販売の選択制の導入――モニタリング結果をケアマネジャーへ交付
次期改定では、利用者の過度な負担を軽減しつつ、福祉用具の適時・適切な利用、利用者の安全を確保する観点から、一部の福祉用具について貸与と販売の「選択制」が導入される。対象は、比較的廉価で、購入した方が利用者の負担が抑えられる者の割合が高い、固定用スロープ、歩行器(歩行車を除く)、単点杖(松葉づえを除く)及び多点杖だ。選択制導入にともない、(1)選択制対象福祉用具の提供には、福祉用具専門相談員又はケアマネジャーが、福祉用具貸与又は特定福祉用具販売のいずれかを利用者が選択できることについて、利用者等に対し、十分な説明を行う。(2)利用者の選択に必要な情報を提供すること及び医師や専門職の意見、利用者の身体状況等を踏まえ、提案を行う。(3)選択制対象福祉用具の提供には、福祉用具専門相談員が、利用開始後6月以内に少なくとも1回モニタリングを行い、貸与継続の必要性について検討を行う。(4)選択制対象福祉用具の提供には、福祉用具専門相談員が、特定福祉用具販売計画の作成後、計画目標の達成状況を確認する。また、利用者等からの要請等に応じて、販売した福祉用具の使用状況を確認するよう努めるとともに、必要な場合は、使用方法の指導、修理等(メンテナンス)を行うよう努める、となっている。
また、福祉用具貸与では、福祉用具貸与のモニタリングを適切に実施し、サービスの質の向上を図る観点から、福祉用具貸与計画の記載事項にモニタリングの実施時期が追加される。福祉用具の適時・適切な利用、利用者の安全を確保する観点から、福祉用具専門相談員が、モニタリングの結果を記録し、その記録をケアマネジャーに交付することも義務づけられる。
訪問リハビリテーションの評価の適正化――口腔サービスと管理栄養士との連携
訪問リハビリテーションの適正化では、訪問リハビリテーションと介護予防訪問リハビリテーションの基本報酬に一定の差を設け、予防訪問リハビリテ-ション費が適正化される。さらに、(1)利用開始から12月経過後の減算について、拡大を行う。ただし、定期的なリハビリテーション会議によるリハビリテーション計画の見直しを行い、L IFEへリハビリテーションのデータを提出しフィードバックを受けてPDCAサイクルを推進する場合は減算を行わない。(2)退院後早期に介護保険のリハビリテーションを開始することを可能とする観点から、ケアマネジャーが居宅サービス計画書に通所・訪問リハビリテーションを位置づける際に意見を求めることとされている「主治の医師等」に、入院中の医療機関の医師を含むことが明確化される。
訪問介護、訪問看護、訪問リハビリテーション、短期入所生活介護及び短期入所療養介護サービスでは、職員による利用者の口腔の状態の確認によって、歯科専門職による適切な口腔管理の実施につなげる観点から、事業所と歯科専門職の連携の下、介護職員による口腔衛生状態及び口腔機能の評価の実施並びに利用者の同意のもと、歯科医療機関及びケアマネジャーへの情報提供を評価する加算が新設。
介護保険施設から、居宅、他の介護保険施設、医療機関等に退所する者の栄養管理に関する情報連携が切れ目無く行われるようにする観点から、介護保険施設の管理栄養士が、介護保険施設の入所者等の栄養管理に関する情報について、他の介護保険施設や医療機関等の医師又は管理栄養士、及びケアマネジャーに文書等で提供することを評価する加算も新設される。
同一建物等居住者減算と理学療法士等による訪問看護の評価の見直し――短期入所の長期利用も厳格化へ
訪問介護の同一建物減算について、事業所の利用者のうち、一定割合以上が同一建物等に居住する者への提供である場合、報酬の適正化を行う新たな区分が設けられる。訪問看護ステーションからの理学療法士等のサービス提供状況及びサービス提供体制等の加算の算定状況に応じ、理学療法士等の訪問における基本報酬及び12月を超えた場合の減算がさらに適正化される。
短期入所生活介護、介護予防短期入所生活介護の長期利用では、長期利用の適正化を図り、サービスの目的に応じた利用を促す観点から、施設入所と同等の利用形態となる場合、施設入所の報酬単位との均衡を図るとした。
科学的介護推進体制加算見直しと介護職員処遇改善加算の一本化――訪問系・居宅介護支援への新設は見送りに
科学的介護推進体制加算について、質の高い情報の収集・分析を可能とし、入力負担を軽減し科学的介護を推進する観点から、(1)加算の様式について入力項目の定義の明確化や他の加算と共通している項目の見直し等を実施。(2)LIFEへのデータ提出頻度について、少なくとも「6月に1回」から「3月に1回」に見直す。(3)初回のデータ提出時期について、他のLIFE関連加算と揃えることを可能とする。ただし訪問・居宅介護支援への加算新設は見送りされた。
介護職員等の確保に向けて、介護職員の処遇改善のための措置をできるだけ多くの事業所に活用されるようにする観点から、介護職員処遇改善加算、介護職員等特定処遇改善加算、介護職員等ベースアップ等支援加算について、現行の各加算・各区分の要件及び加算率を組み合わせた4段階の「介護職員等処遇改善加算」に一本化を行う。その際、2024年度末までの経過措置期間を設けられる。介護職員処遇改善加算は大きく見直しされるものの、今回も訪問看護など医療系訪問サービスと居宅介護支援に処遇改善加算は新設・評価されなかった。
(顧問 宮坂 佳紀)
人権
昭和23年(1948年)12月10日に国際連合で「世界人権宣言」が採択されたことを記念し、この日は世界人権デーとして認識されています。日本では、法務省が12月4日から12月10日までの1週間を人権週間と定めています。また、京都市では12月全体を人権月間と位置づけています。
これらの背景を踏まえ、今月は人権について考えてみたいと思います。
私たち介護支援専門員は、利用者の人権を擁護する立場にあります。利用者の人権の擁護は、介護支援専門員としての職務上の責務となります。
介護支援専門員が守るべき利用者の人権を3つ挙げてみます。
- 尊厳
利用者の人格を尊重し、自立した生活を支えることです。具体的には、利用者の意思を尊重し、利用者のニーズに基づいたケアプランを策定すること、利用者の個人情報を保護すること、利用者の人格を傷つけるような行為をしてはならないなどが含まれます。
- 自己決定権
利用者が自分の生活を自分で決める権利です。具体的には、利用者が自分の介護サービスを選択する権利、利用者が自分の財産を自由に処分する権利、利用者が自分の人生を自由に生きる権利などが含まれます。
- 差別禁止
利用者を差別せず、公平にサービスを提供することです。具体的には、利用者の年齢、性別、障害の有無、人種、民族、宗教、国籍、性的指向、性自認などを理由に利用者を差別せず、公平にサービスを提供することなどが含まれます。
人権という言葉はシンプルですが、その内容は深くて広いものです。
京都府介護支援専門員会においても、人権に関わることとしましては、倫理綱領と倫理規程が作成されています。
倫理綱領から人権という言葉が含まれる一節を紹介します。
【私たちは、利用者の人権を尊重し、介護保険制度の要である介護支援専門員として、その基本理念である『自立支援』『利用者本位』を忘れることなく、次の事項を常に念頭におき、職務を遂行する。】
というような文章となっています。上記に続く文章もありますので是非、ホームページで倫理綱領と倫理規程を熟読し、その精神を業務に活かして利用者の人権を擁護できる介護支援専門員を目指していきたいものですね。
本年もあと少しで終わります。会員の皆様、1年間お疲れ様でした。
(広報委員 河東 大樹)